先日読んだ本「データ栄養学のすすめ」は、厚生労働省の基準を作っている方の本です
長く蓄積された信頼性の高い情報ばかりです
ただ個人的には、最先端栄養学!みたいな話も結構好きだったりします
ということでamazonでベストセラーになっていた、
”WHOLE がんとあらゆる生活習慣病を予防する最先端栄養学”を読んで、気になった点をメモしておきます
ホーリズム(全体主義)vs リダクショニズム(単純主義)
本書で一貫して書かれているのは、ホーリズムとリダクショニズムの対立です
リダクショニズムとは、ヒトの生体的な働きを単純化した要素に分離・抽象化して扱おうとするものです
いわゆる西洋医療、遺伝学、サプリメントがこちらに該当します
ホーリズムとは、ヒトの生体的な働きは非常に複雑かつ相互に影響しあっていて単純に分離はできないので、”全体として扱おう”とするものです
人間の体は無限の複雑性を持つのではないか
- カルシウムは鉄の利用効率を最大400%減らし、カロテノイドは鉄の吸収率を300%高める
- ビタミンEとセレン、ビタミンEとビタミンC、ビタミンEとビタミンA、ビタミンAとビタミンDは相互に影響し合う
- マグネシウムは鉄やカリウム等ほか栄養素の効果に影響を及ぼし、300種類の酵素機能に欠かせない
”カルシウムを摂ると骨が強くなる”とか、”ビタミンEで老化を防げる”とか考えがちです
ただ実際には、人間の体は途方も無い相互作用と複雑さを自分で調整しながら機能している、ということです
リンゴはビタミンC単体と比べて260倍の抗酸化作用がある
リンゴ、ビタミンCともに抗酸化作用があると言われています
本書では、”生のリンゴの抗酸化活性”と、”リンゴに含まれる量と同じ量のビタミンCの抗酸化活性”を比べていて、
生のリンゴの方が260倍抗酸化活性があったとしています
リンゴが特にビタミンC豊富というわけでも無いですし、さすがに少々無理がある比較かなと思いました
しかし少なくとも、”最近果物食べてないからビタミンCのサプリを飲むか”は成り立たない感じですね
15%の科学者が資金提供元の圧力を元に研究の”修正”を行った
ホーリズムより、リダクショニズムのほうが遥かに儲かりますし、わかりやすいです
”ビタミンCで肌がきれいになる”、”ビタミンEは抗酸化作用がある”
こういった情報は、教育・発信もしやすいですし、サプリメントや健康食品にも利用しやすい側面があります
そうするとリダクショニズム的な情報が世間に溢れ、そして中立的であるべき研究すら修正してしまいます
このあたりは研究者や企業が悪いというより、資本主義の限界な気がしますね
まとめ
本書の中で印象に残ったフレーズを引用させていただきます
消費者の大半はお手上げで情報に振り回されて、偽りの希望(「なんと、イワシで心臓病が予防できる!」)と、運命論(「何を食べたって結局は死ぬのだから、心配などしないほうがまし」)との間を行ったり来たりしているのです。この栄養に対する姿勢の二極性は、そのような食べ物を販売して大儲けをしている業界の人達や、食事が原因で起こる病気の治療法を私達に売る人たちの利益になります。 (p364より引用)
アプローチは多少違うものの、やたら都合のいい研究データと向き合う姿勢に関しては佐々木敏氏と共通点があります
最先端栄養学!といいつつ普遍的な結論だなーと思いましたが、現代科学ではまだまだ分かっていないんでしょうね
最後に、個人的にはこの本の内容は期待とは異なるところがあったので触れておきます
- 科学的エビデンスはあまり載っていない
- 先述したリンゴとビタミンCの比較に関しても、詳細な研究条件などの記載はない(出典はところどころある)
- やや極端な主張が見受けられる
- カゼインたんぱく質にはガンを誘発する可能性がある→動物性タンパクはダメだ!と解釈が実験より広がっている
- 地球環境を考慮して負荷の少ない菜食が良い、という主張と混ざっている?
- リダクショニズムに対する恨み節?がすごい
- 著者(86歳)が、煮え湯を飲まされ続けてきたことが伝わるが、本書の半分以上がこれに割かれている感
全体的にやや過激(&陰謀論的)なので、本書自体が極端な食事法を煽るものに使われそうな感じです
取り扱い注意ですね